研究日誌

哲学と哲学史を研究している人の記録

フレデリック・C・バイザー『理性の運命:カントからフィヒテまでのドイツ哲学』

年末から半分趣味で読み始めたFrederick C. Beiser, The Fate of Reason: German Philosophy from Kant to Fichteが面白い。理性と信仰という古典的な問題が「汎神論論争」というかたちで18世紀後半のドイツ(語圏)の哲学界にどのようにあらわれたのかを、この論争に登場する主要な哲学者それぞれの主張とその背景を確認しつつ示していくという(たぶん「手堅い」といえる)構成なんだけど、その際の手つきが見事すぎる。特筆すべきは、各哲学者の議論を再構成するときの匙加減の絶妙さだろう。「ある哲学者の主張だけでなくそれを支える議論も明快に再構成して示すけど、(それはそれで重要な)議論の細部は、全体的な話の流れをわかりにくくさせるようなら触れない」という方針を貫くのはそう簡単なことではない。カントを除けばこの時代の哲学についての知識が非常に乏しい私でもこの本を挫折しないで楽しく読めるのは、バイザーがこの方針を(少なくともこれまでに読んだら第五章の途中までは)きちんと守っているからだと思う。もちろんこうしたやり方にはデメリットもあって、再構成された議論にはちょっと踏み込んで考えてみると変な感じがする箇所がたまにある。(たとえば、バイザーの再構成を見る限りでは、ヤコービメンデルスゾーンは(少なくとも現代的な観点からは)かなり謎の前提を暗黙のうちに使っているように見える。)でもまあそういった点について気になる人は各哲学者の原著かより詳しい研究書にあたるべきだろうから、このデメリットを理由にバイザーを責めるのはちょっと筋違いかな。全部読み終わったらもう少し感想を書きたい。