研究日誌

哲学と哲学史を研究している人の記録

フィクションのなかのフッサール現象学

 

上の記事で紹介されているコリン・ウィルソン『精神寄生体』にフッサール(というよりも、フッサール現象学)が登場するらしいので古本を注文しました。読みます。

それで思い出したのですが、スタニスワフ・レムの中編「天の声」にもフッサールの名前がちらっとだけ出てきます。法学者ウィルヘルム・イーネイ博士の人物を描写している以下の箇所。

イーネイは極めて現実的な力を代表していた。一点の非の打ち所がない物腰も、フッサールに傾倒しているという点も、少なくとも彼を感じがいい人間にはしていなかった*1

レムはフッサールの現象学にあまりいい印象を持っていなかったのかもしれません。

ちなみにレムはルヴフ(リヴィウ)のギムナジウム時代に、フッサールの学生だったインガルデンから数学を教わったこともあるようです。

たしかにかなり短期間ではあるが、やはり数学をインガルデン先生が教えていたこともあったのだ。すでに当時彼はヨーロッパで評判の哲学者だったが、そんなことはおそらく私たちのうちのだれも聞いたことがなかった。とはいえインガルデンはそれほど私たちに献身的ではなかったが、それもそのはず、わたしたちは数学に対する集団的抵抗でもって、極めて優れた教師の才能をも試練にさらしていたのだった*2

レムがギムナジウムに入学したのは「たしか1932年」だということなので*3、おそらく30年代前半の話でしょう。

*1:スタニスワフ・レム「天の声」(深見弾訳)、『天の声・枯草熱』、沼野充義・深見弾・吉上昭三訳、国書刊行会、2005年、71ページ。

*2:スタニスワフ・レム「高い城」(芝田文乃訳)、『高い城・文学エッセイ』、沼野充義、巽孝之、芝田文乃、加藤有子、井上暁子訳、国書刊行会、2004年、88ページ。

*3:レム「高い城」、67ページ。