久しぶりにレムの本を開いて思い出したこと。『宇宙創世記ロボットの旅』には「高等非実在専門学校」なる機関が出てきて、マイノング(主義)について論じるときににエピグラフにしたくなるようなことが書いてあります。
通説では竜などというものは存在しないことになっている。ところが、低俗な頭の持主ならともかく、そんな単純な論法が学者の知性を満たすはずはない。高等非実在専門学校が存在するものを絶対に研究対象としないのは、そのためである。要するに、実在はあまりにながい時を安住のうちにすごしてきたため、いまさらそれについて一言も語るにはおよばないというのだ*1。
マイノングについては、だいぶ前に「「存在しない対象が存在する」というマイノングの主張について:明確化の試み」という論文を書いたことがあって、正式には未公刊のままお蔵入りという感じになっているのですが、マイノング(主義)入門用の文書としては悪くないんじゃないかといまでも思っています。あと、大川勇『可能性感覚』(松籟社、2003年)も、マイノングについての議論を含む貴重な日本語の本で、しかも面白いです。
*1:スタニスワフ・レム「竜の存在確率論」、『宇宙創世記ロボットの旅』、吉上昭三・村手義治訳、ハヤカワ文庫、1976年、95ページ