研究日誌

哲学と哲学史を研究している人の記録

エディット・シュタインが語るフッサールの観念論

フッサールが1913年の著作『イデーンI』で表明した観念論的な見解に対して、いわゆるミュンヘン・ゲッティンゲン学派に属する初期の実在論的な現象学者たちが反発した、という話は比較的よく知られているのではないかと思います。この対立に関するエディット・シュタインの所見がなかなか興味深いので紹介しましょう。以下は、シュタインがローマン・インガルデンに宛てた1927年10月2日付の書簡の一部です。

構成の問題(私がこれを過小評価しないことは確かです)から観念論が導かれなければならない、あるいは観念論が導かれうるということを、私は信じていません。私が思うに、この問いはそもそも哲学的な方法によって決着をつけられるようなことではなく、誰かが哲学をしはじめるときにはいつでもすでに決まってしまっていることです。そして、ここでは個人の究極的な立場が関わってくるわけですから、フッサールの場合でさえも、彼にとってこの論点が論争不可能であるということは、無理のないことです*1

観念論の問題について、シュタインはフッサールとかなり議論をしたはずです。このことを踏まえると、シュタインが仲の良い友人に伝えたこの感慨めいた所見は、観念論をめぐる議論のなかで両者は一歩も譲らなかったのだろうなということを想像させるもののようにも思われます。

ちなみに『エディット・シュタイン全集』(Edith Stein Gesamtausgabe)の本文テクストは、以下のページですべてダウンロードできます(サムネイルにPDFと書かれた画像が出ていますが、リンク先はPDFではないです)。ただし紙版の全集とは違いページ番号が付されていないため、これだけでは学術的な用途には使いにくいです。あと、編者による序文と注も省略されています。

 

エディット・シュタインの生涯と思想については、まずは次の本を読むといいのではないかと思います。

 

*1:Edith Stein, Selbstbildnis in Briefen III. Briefe an Roman Ingarden, Herder, 2005, 185.