今年度の演習のひとつでは、100分授業14回でフッサールの二次文献を3冊読む。授業資料のうち、以下の部分は多くの人に有益だろうと思ったので、ここに公開しておこう。
この授業の概要
- この授業では、フッサールに関する日本語の二次文献を、入門書・概説書からはじめてより本格的なものへという順番で合計3冊読む。
- どの概説書も、フッサールの現象学を現代の分析哲学、とりわけ言語哲学と関連づけるという特徴を持つ。
- そのため、この授業は分析哲学の知識を手に入れるための機会にもなる。
講読文献
- 門脇俊介『フッサール——心は世界にどうつながっているのか』、NHK出版、2004年。
- 少々古い入門書だが、いまでも読む価値が高い*1。とりわけ第1章で与えられる見通しは有益である。ただし、最近の哲学入門書の傾向と比べると、本書はかなり難しい。
- 富山豊『フッサール——志向性の哲学』、青土社、2023年。
- フッサール入門の定番に最近加わった一冊で、これ以上なく丁寧な説明が展開されている。ただし、この本の趣旨――普通のフッサール入門書が一章(あるいは一節)ですませてもいいような話について、その要点のひとつひとつをじっくり解きほぐす――をきちんと理解していないと、かえって迷子になるかもしれない。ただし、最終章はいま述べた趣旨とは違う仕方で書かれており、議論が圧縮されていてやや難しい。
- 葛谷潤『志向性の基礎——『論理学研究』におけるフッサールの基礎意味論』、晃洋書房、2025年。
- 著者の博士論文を改稿した本格的な研究書だが、趣旨は明快であり、議論も総じて丁寧にすすめられる。この授業で取り上げる最初の2冊を読んでおけば、おそらく主要な論点を押さえることはできるはずだ。ただし、それ自体としてはかなり細かい話が進められている。また、著者が用いるアナロジーは卓抜といっていいが、これを理解するのは見た目ほど簡単ではないかもしれない。
講読文献の次に読むとよさそうな本
- 佐藤駿『フッサールにおける超越論的現象学と世界経験の哲学——『論理学研究』から『イデーンI』まで 』、東北大学出版会、2015年。
- 副題にあるとおり、『論理学研究』から『イデーンI』に至るまでのフッサール現象学の発展を追った著作で、上記3冊と問題関心の重なりも多い。そのため、次に読む最初の一冊はたぶんこれが一番いい。フッサールについて卒論を書くか、それ以上のことがやりたいならば、これを読み終わったあたりで一次文献をじっくり読むことも始めてほしい。
- 貫成人『経験の構造——フッサール現象学の新しい全体像』、勁草書房、2003年。
- 門脇俊介とほぼ同世代の(そして同じ大学院出身の)著者による研究書で、これもいまでも読む価値が高い*2。前半部分では講読文献と重なる論点を扱いながらも、後半ではフッサール現象学の意義についてかなり広い展望を示してくれる。講読文献を読んだあとに、もっとスコープの大きな話を知りたいならこれが次の一冊としておすすめ。
- 植村玄輝『真理・存在・意識——フッサール『論理学研究』を読む』、知泉書館、2017年。
- 自分の本も載せておきます。原著だと約1000ページの大著『論理学研究』でフッサールが何をしようとしたのか、それにどう失敗したのか(そして、その失敗をどう乗り越えようとしたはずなのか)を知りたければ、この本を読んでみるといいでしょう。丁寧に書いたつもりですが、丁寧さの種類はたとえば富山本とはだいぶ違います。読むのが大変な本ですが、『論理学研究』を全部読むよりはたぶん簡単です。ここだけ文体が違うのは照れです。